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旭川地方裁判所 昭和63年(ワ)374号 判決 1989年7月31日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六三年九月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  別紙物件目録記載の物件(以下「本件機械」という。)は訴外有限会社セキ(以下「セキ」という。)が所有していたが、原告は、昭和六三年二月一日、本件機械をセキから時価相当額の金三〇〇万円で買い受け、所有権を取得した。

2  原告が本件機械をセキに貸していたところ、セキは昭和六三年三月に倒産し、被告は、同年四月、本件機械を旭川市旭神町一五番地のセキの工場から搬出し、第三者に売却処分した。

3  よって、原告は被告に対し、民法七〇九条に基づき、金三〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六三年九月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の主張に対する認否)

被告の主張1ないし5の事実は知らない。同6は争う。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち本件機械をセキが所有していたことは認め、本件機械の時価相当額が金三〇〇万円であることは否認し、その余の事実は知らない。本件機械の時価相当額は金六八〇万円である。

2  請求原因2の事実のうち被告が本件機械を昭和六三年四月にセキの工場から搬出し、アングルカッターを除くその余の機械を第三者に売却処分したことは認め、セキの倒産した時期は否認し、その余の事実は知らない。セキの倒産した時期は昭和六三年四月である。

(被告の主張)

1  セキは昭和六三年四月一日に倒産し、同社の委任を受けて、訴外金子利治弁護士がその債務の整理に当たった。

2  被告は、昭和六三年四月二〇日、かねてより付き合いのあった訴外株式会社ほくさん旭川営業所の中村から、本件機械が金子弁護士により売りに出されていることを知らされ、本件機械を下見したうえ同弁護士から、同弁護士がセキの代理人であること、本件機械はセキの所有するものであること、被告において本件機械を買うのであれば同弁護士宛に見積書を出してもらいたいことなどの説明を受け、同日合計金六八〇万円の見積書を提出した。

3  さらに、被告は、本件機械のうち四点にメーカーとしてアマダの表示があったので、その購入代金の残債務を調べるため北海道アマダにその有無を照会し、残債務はない旨の回答を得た。

4  その後、被告は、同月二九日、金子弁護士からセキの同弁護士に対する委任状の提出を受け、同弁護士との間で本件機械を含め合計九点の機械(以下「本件機械等」という。)を代金七〇〇万円で被告が買い受けることを内容とする機械売買契約書を作成して同契約を締結した。

5  そして、被告は、同月三〇日、金子弁護士から本件機械等の引渡しを受けると同時に代金七〇〇万円を同弁護士の口座宛銀行送金したが、本件機械には前記のとおりメーカーのアマダの表示はあったもののそれ以外に所有権留保の表示などは全くなかった。

6  以上のとおり、被告は、本件機械をセキの所有物であると信じ、そのように信じることについて過失もなしに本件機械の引渡しを受けたのであるから、民法一九二条により本件機械の所有権を取得した。

第三  証拠<省略>

理由

一  本件機械をセキが所有していたこと、被告が、昭和六三年四月、本件機械を旭川市旭神町一五番地のセキの工場から搬出し、本件機械のうちアングルカッターを除くその余の物件を第三者に売却処分したことは当事者間に争いがない。

二  <証拠>によれば、以下の事実が認められる。

1  塗装業を営む原告は、昭和六三年一月ころ、友人の紹介で知り合ったセキの代表者関薫から金銭の借用の申込を受けてこれを承諾したが、右貸金債権を担保するため、同六三年二月二日、要旨次の(一)ないし(四)を内容とする動産売買及び賃貸借契約公正証書を作成したうえ、そのころ、セキに対し金三〇〇万円を貸し付けた。

(一)  セキは、昭和六三年二月一日、その所有する本件機械を代金三〇〇万円で原告に売り渡し、原告はこれを買い受けた。

(二)  原告は、契約成立と同時に右代金全額を支払い、セキはこの受領と引換えに本件機械の所有権を原告に移転し、かつその引渡しをした。

(三)  原告は、セキが右売買代金と右契約につき原告が支出した費用とを現実に提供して本件機械の買戻しを請求したときは、その請求に応じてこれを売り戻す。

(四)  原告は、本件機械を、期間を昭和六三年七月三一日まで、賃料一か月金三万七五〇〇円、毎月二八日限りその月分を支払う、との約定で即日セキに賃貸した。

2  その後セキは昭和六三年三月末ころ倒産し、関薫も所在不明となったので、セキに対し債権を主張する者が本件機械等についての所有権を主張して関薫の自宅等に押し掛けるようになった。そのため、関薫の妻でセキの事務を担当し、かつ関薫から会社の印鑑、帳簿類の保管を委ねられていた関和子は、同年四月一〇日ころ、金子利治弁護士にセキの財産売却を含め、債務整理を委任した。

3  金子弁護士は、セキの工場にあった本件機械等について債権担保の目的で所有権を取得したと主張していた拓殖興業、イッセイ産業、ヨシダ商事の債権者三者と交渉したうえ、本件機械等を他の第三者に売却し、その売却代金をもって右三者に対するセキの債務を弁済することの承諾を得た。そして、早速本件機械等の売却先を探していた。

4  被告の札幌支店長臼井直也は、同年四月二〇日、取引上の付合いのあった株式会社ほくさん旭川営業所の社員中村から、倒産したセキの工場にある機械が売りに出ている旨の情報を得て旭川市を訪れ、本件機械等の下見をした後、同月二六日、金子弁護士と会い、同弁護士から、同弁護士がセキの代理人であること、本件機械等はセキの所有するものであること、被告において本件機械等を買うのであれば同弁護士宛見積書を提出してもらいたい旨の説明を受けた。

5  そして、臼井は、同月二七日、本件機械につき金六八〇万円、その余の機械につき金二〇万円、合計金七〇〇万円とする見積書を同弁護士宛提出し、また、本件機械のうち四点にメーカーのアマダの表示があったので、メーカーに所有権留保されていないかどうかを確かめるため、その購入代金の残債務の有無をメーカーの支店宛照会し、残債務はない旨の回答を得た。

6  同月二九日、臼井は、金子弁護士からセキ代表取締役関薫作成名義の同弁護士に対する委任状の提出を受けるとともに、被告を代理して、セキの代理人としての同弁護士との間で本件機械等を代金七〇〇万円で被告が買い受けることを内容とする機械売買契約書を作成して同契約を締結したうえ、翌三〇日に本件機械等の引渡しを受けるのと引換えに右代金を同弁護士の口座宛銀行送金した。

7  金子弁護士は、その後右代金をもって前記債権者に対する債務の支払に充てたが、同年五月ころ、一時姿を現わした関薫と会った際にそれまでのセキの債務処理に関する報告をして本件機械等の売却、債務弁済などについての追認を得るとともに、以後のセキの債務処理についてもあらためて同人から明示の委任を受けた。

三  以上の事実によれば、原告が、昭和六三年二月一日、本件機械について所有者であったセキから貸金債権担保の目的で譲渡を受けてその所有権を取得したことは認められるが、被告は、その後の同年四月三〇日、セキの代理人として財産の売却を含めて債務の整理に当たっていた金子弁護士から本件機械を買い受けて平穏、公然にその占有を取得したものであり、占有の取得に至る経緯に鑑みても被告は本件機械がセキ以外の第三者の所有であることについて善意であり、かつそのことにつき過失があるとは認められないこと、金子弁護士は少なくともセキを代理して本件機械を売却したことにつき代表者関薫から追認を得ているが、前記経緯に照らし当初からセキの代理権限を有していたと認められることを考えると、被告は民法一九二条により本件機械の所有権を取得したものと認められる。

四  したがって、本件機械についての所有権侵害に基づき損害賠償を求める原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石山容示)

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